名古屋地方裁判所 昭和33年(行)12号 判決 1965年1月30日
三重県松阪市長月町一七二の三
原告
中山木材生産有限会社
右
代表者代表取締役 中山義雄
右
訴訟代理人弁護士 加藤博隆
右訴訟復代理人弁護士
富島照男
名古屋市中区南外堀町六の一
被告
名古屋国税局長
奥村輝之
松阪市
被告
松阪税務署長
佐野勝雄
右被告ら指定代理人
松崎康夫
山本義雄
永井鎮雄
西角道雄
右当事者間の昭和三三年(行)第一二号法人税賦課処分取消事件につき当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「原告会社の昭和二八年度(昭和二八年四月一日より昭和二九年三月三一日まで)の法人所得金額金二五七万八〇〇円、これに対する法人税額一六一万九二三〇円とする被告松阪税務署長の法人税賦課処分及び昭和三二年一二月二〇日被告名古屋国税局長がなした審査決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、
一、原告会社は木材の生産販売及びこれに附帯する一切の業務を営業目的とする有限会社であるが、同社の昭和二八年度(昭和二八年四月一日から昭和二九年三月三一日まで)の損益計算は左のとおりである。
借方
繰越商品 二、五〇〇、〇〇〇円
仕入商品 八一、六七三、六九二
営業費及び一般管理費 一〇、四六八、九〇六
貸方
売上金 九一、五七七、四一五円
雑収入 八三九、一二九
期末在庫商品 一、一〇〇、〇〇〇
差引損失 一、一二六、〇五四
二、然るに被告松阪税務署長は昭和三〇年六月四日原告会社の右年度の法人所得額を金二五七万八〇〇円と査定し、これに対する法人税を金一六一万九二三〇円と課税した。よつて原告は同年六月七日松阪税務署長に再調査の請求をしたが、これがみなす審査請求に移行し、被告名古屋国税局長は昭和三二年一二月二一日原告の審査請求を棄却する旨の決定をなし、右決定書は同月二三日原告に送達せられた。
よつて原告は右課税処分並びに審査決定の取消を求めるため本訴請求に及んだ。
と述べ、被告らの主張に対し、被告ら主張の営業利益率は争う。また原告会社の東京営業所の取引を示す帳簿が備えられていない点及び棚卸が行われていない点は争う。原告会社の売上については納品伝票が原始記録であり、又仕入については荷受書が原始記録である。そして納品伝票によつて作成したものが甲第八号証の売上明細書であり、荷受書によつて作成したものが甲第七号証の仕入明細書である、と述べた。
被告ら指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の如き課税処分並びに審査決定があつたことは認めるが、その余の事実は争う。被告松阪税務署長が原告に通知した課税処分は左のとおりである。
所得金額 二、五七〇、八〇〇円
法人税額 一、〇七九、七三〇
重加算税額 五三九、五〇〇
原告会社はその営業の主体たる東京都南多摩郡町田町原町田六〇八番地の東京営業所に関する取引を示す売上、仕入の補助簿、市売精算書等の原始記録を備えず、商品の棚卸すら行つていなかつたものであり、従つて原告会社の決算はずさんを極め、全く恣意的になされたものであつた。よつて被告らは原告の所得額を推計するのほかはなかつた。
被告名古屋国税局長が調査した結果によれば、原告の昭和二八年度の所得は左のとおりである。
売上金額 九二、六二四、一三八円
営業利益率 四、一%
営業利益 三、七九七、五八九
受取利息 三二三、〇三一
支払利息 △ 一、二二三、〇七四
公課 △ 四四、七三〇
雑損失 △ 六〇、〇〇〇
差引所得 二、七九二、八一六
よつて被告松阪税務署長が原告の所得額を金二、五七〇、八〇〇円と査定した課税処分には何等違法はなく、従つてこれを維持して原告の審査請求を棄却した被告名古屋国税局長の審査決定にも違法はない。と述べた。
(証拠関係)
原告訴訟代理人は、甲第一ないし第八号証を提出し、証人嶋与一郎、同岡田偉、同加藤正緒及び原告会社代表者本人の各尋問を申出で、乙第一、二、七ないし九、一四号証、同第一六号証の一ないし同第一七号証の一〇は成立を認め、その余の乙各号証の成立は不知、と述べた。
被告ら指定代理人は、乙第一ないし第一五号証、同第一六号証の一ないし六、同第一七号証の一ないし一〇を提出し、証人北村頼夫、同西井光郎の各尋問を申出で、甲第三、四号証の成立は認める、その余の甲各号証の成立は不知、と述べた。
理由
一、原告の昭和二八年度(昭和二八年四月一日より昭和二九年三月三一日まで)の法人所得につき被告松阪税務署長が所得金額二五七万八〇〇円と査定し、その法人税額(重加算税額を含む)を金一六一万九二三〇円と課税処分をなしたこと、及び被告名古屋国税局長が右課税処分に対する原告の審査請求を棄却する旨の審査決定をなしたことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、被告らは原告の所得額を査定するに当り、原告の昭和二八年度における売上金額からその利益額を推計するという方法を採つており、証人西井光郎の証言、成立に争のない乙第一、二号証、同第七号証等を総合すれば、被告らが課税処分或は審査決定をなすに当り、右推計の方法を採らざるを得なかつたことは首肯できるが、今本件訴訟において原告から提出された甲第一ないし第八号証、及び被告らが調査した資料を総合してみて、現在でもなお原告の正確な所得を把握することが困難であり、従つて推計の方法によらざるを得ないものかどうかについて案ずるに、甲第四号証には記帳上不合理な点があること、甲第四号証と甲第七号証との間には種々相違する点があること、原告の松阪店における期首、期末の在庫品について棚卸がしてないこと、原告の東京営業所における棚卸表である甲第一、二号証も弁論の全趣旨に徴し果して正当な時期に作成されたものか否か(従つてその内容が正確なものか否か)疑問があること、甲第七、八号証についてもその基礎となつた原始記録が証拠として提出されていないこと等諸般の事情を総合すれば、本件最後の口頭弁論当時においてもなお原告の正確な所得を把握することは困難であると思われ、更に証人加藤正緒の証言によれば、材木業者については従来から帳簿外取引が多く、帳簿によつて正確な所得を算出することは困難であつたので、従来も権衡調査によつて所得額を推計していたことなどが認められるから、かような事情を総合して考えると、本件においても被告ら主張の如き方法によつて原告の所得額を推計する外はないと思料される。
そして、証人北村頼夫の証言及びこれによつて成立を認め得る乙第一〇号証を総合すれば、材木業者の平均営業利益率は四・一%であることが認められる。
三、原告の昭和二八年度における売上高については金九一、五七七、四一五円の限度において当事者間に争いがなく、そして本件証拠によれば原告には、右金額の外に左の売上げがあることが認められる。
(1) 成立に争いのない乙第一六号証の一、二、同第一七号証の一、三、七ないし九及び証人西井光郎の証言並びにこれにより成立を認め得る乙第一一号証を総合すれば、
年月日 売渡先 売渡金額
昭和二九年一・一二 松阪地区材木協同組合 一〇、〇八五円
〃一・二三 〃 八九、七三九
〃一・二六 松阪木材株式会社 八四、八〇五
〃二・四 松阪地区木材協同組合 二、七七〇
〃二・一三 〃 四七、七六四
〃二・二五 松阪木材株式会社 九七、五二七
〃 〃 四七、一九三
合計 三七九、八八三
の売上げがあることが認められる。(以上売上金はいずれも甲第八号証には記載されていない)。
(2) 証人西井光郎の証言及びこれにより成立を認め得る乙第一二、一三号証を総合すれば、訴外関東木材株式会社振出の左記手形及び小切手が原告の受取手形記入帳に記載せられており、これが中小企業助成銀行で割引せられ、そして同銀行の三和物産株式会社の預金口座に入金せられて、原告の資金として運用されていることが認められ、また成立に争いのない乙第八号証、証人西井光郎の証言及び原告会社代表者本人尋問の結果を総合すれば右三和物産株式会社は原告会社の代表取締役中山義雄が代表取締役をしている会社であつて、現実には何等事業をしていない会社であることが認められるから、右手形及び小切手は反証なき限り、原告の売上金として受取つたものと解するのが相当である。
振出年月日 手形又は小切手 金額
昭和二八・三・二三 手形 三五〇、〇〇〇円
〃 〃 四〇〇、〇〇〇
〃三・二七 〃 三八〇、〇〇〇
〃 〃 三五〇、〇〇〇
〃四・二八 〃 四〇〇、〇〇〇
〃 小切手 四、五〇〇
〃一〇・一六 手形 二六〇、〇〇〇
〃 小切手 二、三四〇
証人岡田偉の証言及びこれにより成立を認め得る甲第六号証、証人嶋与一郎の証言及び原告会社代表者本人尋問の結果を総合すれば、原告会社代表者中山義雄は昭和二八年春頃個人として訴外関東木材株式会社に原木を売渡し、その代金が一、〇四六、七二三円になつたことが認められるが、右手形及び小切手が右原木の売買代金として授受されたものであるのであることを認めるに足る証拠はない。また甲第六号証に記載された支払金額と右手形、小切手を対照して見て金額が一致するものもない。よつて右手形、小切手が、中山義雄が個人として関東木材株式会社に売渡した原木の代金とは認め難いのであるが、仮りに一歩を譲り、右手形、小切手のうちに右原木代金が含まれているとしても、昭和二八年三月二三日及び同月二七日に振出された手形四通で優に一、〇四六、七二三円を超過するから、右手形で中山義雄個人の取引は決済されていると解されないこともない。かように考えると、右手形、小切手のうち昭和二八年四月二八日以後に振出されたものは、原告会社の取引による受取手形と解するの外なく、そしてその金額は合計金六六六、八四〇円である。証人嶋与一郎及び同岡田偉の各証言中右認定に反する部分は措信しない。
以上当事者間に争いのない売上金と、右(1)(2)の金額を合計すると、その総額は金九二、六二四、一三八円となる。
右売上総額に対し平均営業利益率四・一%をかけると、その利益額は金三、七九七、五八九円となる。
四、その他の所得については、原告は雑収入八三九、一二九円と主張しているに対し、被告らは受取利息三二三、〇三一円のみを査定しているに過ぎないから、この点においては被告らの査定により原告が不利益を受けているとはいい得ない。よつて原告はこの点については不服を申立てる訴の利益がない。
五、原告は昭和二八年度の必要経費として金一〇、四六八、九〇六円を計上しているが、売上高に対する平均利益率は、その売上げに要した必要経費を控除して算出せられたものであるから、原告の営業利益率によつて推計した以上、更に必要経費を考慮する必要はない。
その他に被告らの査定が不当或は違法であることを認めるに足る証拠はない。
六、そうすれば右認定所得の範囲内で被告松阪税務署長が、原告の所得を金二、五七〇、八〇〇円と査定しその法人税額(重加算税額を含む)を金一、六一九、二三〇円と通告した課税処分には何等違法はないものというべく、
従つて右課税処分を維持して原告の審査請求を棄却した被告名古屋国税局長の審査決定にも違法はないものというべきである。
七、以上の理由により原告の本訴請求は失当として棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本重美 裁判官 加藤義則 裁判官 横山弘)